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サイエンスフェスタを振り返って ーサイエンス・フェスタ2021ー
サイエンスフェスタを振り返って
大阪教育大学、大阪大学
中田博保
1.はじめに
 梅田のハービスで行われていたサイエンスフェスタを東京オリンピックの影響で会場を大阪工業大学に移して行う予定にしていた。昨年はコロナ感染の拡大のため、中止を余儀なくされた。今年度はコロナ禍の困難な状況下ではあるが、大会存続の危惧からどのような形でも行うとの強い決意を持って、実行委員会により準備が進められてきた。先日まで規模を縮小して大阪工大梅田キャンパスでの対面の開催が計画されていたが、感染状況悪化のためオンライン開催となった。
2.サイエンスフェスタの委員長をして
 日本物理教育学会近畿支部の支部長をしていたこともあり、前委員長の高杉先生から依頼されて、2017年の秋にサイエンスフェスタの委員長を引き受けることになった。最初の仕事は科研費の申請で、科研費はこれまでなんども申請していてあまり当たったことがなく、自信はなかったが、それまでの申請書を参考にして、高橋先生や高杉先生、筒井先生のご意見を取り入れて申請し、翌年4月に採択され、翌年も同様に申請して採択された。
 年明けから実行委員会が始まり、実務の方は実行委員長が取りまとめてくださったので、私の方はサイエンスフェスタの講演会「科学のお話」の講演者を決めるという任務であった。1年目は昆虫の研究をされていた大工大の棚橋先生にお願いした。小学生にも理解しやすいお話で、また事前に各ブースを回られるなど非常に熱心に取り組んでおられた。会場の都合でブースの話声が講演会場に入ってくるというやりにくい状況で講演をしていただいたのは申し訳なく思った。2年目は委員会の議論を待ち、同窓会でお会いする阪大の寺田先生に決まった。寺田先生は月の研究で活躍されているとともに子供向けのイベントにも積極的に参加されている方で、講演会では寺田先生のファンも押しかけ盛況だった。 今後サイエンスフェスタで助けていただけることを期待している。
 2019年の夏は日韓関係が悪くなり、毎年来ていただいている韓国のグループのキャセルもあった。そんな状況を乗り越えていくつかのグループが参加してくださったのは心に残った。国民同士の交流は絶やしてはならないと思う。
 2019年のサイエンスフェスタが終わった直後、2020年のサイエンスフェスタの開催場所の問題が起こった。2020年開催予定だった東京オリンピックのため東京で2020年夏に行われる予定だったイベントの多くが大阪に会場変更になり、これまで用いていたハービスが使用できなくなるということだった。委員会の皆様が手分けをして色々な会場を検討されたが、なかなか見つからず、最終的に大工大梅田キャンパスでの開催が決まった。その後、大工大での開催であれば棚橋先生に委員長をしていただくのが、適当と依頼したところ快く引き受けていただいた。その時はコロナでこのような混乱した事態になるとは夢にも思ってなかった。高杉先生からのご提案でサイエンスフェスタ交流会を大教大で開催した。これはサイエンスフェスタで賞をとったグループを招待してプレゼンをしていただき、グループ同士の交流を深めるものだった。
3.これからのサイエンスフェスタ
 青少年のための科学イベントをどう捉えるかは10年、20年といった長いスパンで考えていく必要がある。参考になるのは歴史で、これまで日本はどのように歩んできたかを振り返るとヒントがあるような気がする。日本の国がどのように作られてきたかを紹介する展覧会が奈良国立博物館で現在開催されている。「聖徳太子と法隆寺」という特別展で、普段見にできない宝物の数々が展示されていた。日本の国を作るに当たって、仏教の教えをその根本におき、遣隋使を派遣して中国から最先端の技術、学問などを学ぼうとして、聖徳太子がその筆頭に立って、難解な仏教の教えなどを学習された。このコロナ禍にあって、もし聖徳太子ならどう考え行動したかを考えてみるのは面白い。現在の状況だと仏教の代わりに科学をおき、諸外国からの先端技術の輸入を今以上に進めたのではないかと思われる。
 さて、東京オリンピックとコロナに振り回されているサイエンスフェスタだが、長い眼で見るとますますサイエンスフェスタの意義が高まっていると思う。コロナの世界的な拡大を抑え込むには科学の力が不可欠で、どのように感染するか、対策をどうするか、ワクチンの開発など科学の力がないと乗り切るのが難しいことがよくわかってきた。また公表される新規感染者数の推移を見ても、その数字をどう捉えるかは専門家だけでなく、個人個人がどう判断するかが大切になってきている。このように専門家だけでなく各自が科学的見識を持って行動することが求められている。これはすぐにできることではなく、科学的な考え方を子供の頃から身につけてそれに基づいて行動することが大切である。サイエンスフェスタはこのように子供たちが科学的思考を身に着けるのを助けるのに大いに役立っているのではないだろうか。社会全体が科学的に考え行動していく方向に導くと考えている。
4. おわりに
 オンラインになったサイエンスフェスタに参加していただき、科学の楽しさに触れ、子供達が科学的思考を身につけて行動していくことを願っている。また来年以降もこのイベントが存続し、科学的なものの見方が社会に広がっていくのを期待する。最後に例年になく大変な状況で準備を進められてきた棚橋委員長はじめとする実行委員の皆様、読売新聞社と協賛グループの方々のご努力に感謝する。